本書より抜粋
従来のわが文学史は、特権知識階級のみの文学史であって、すなわち今日でいう大衆文学と、庶民の嗜好的読物を含んだものはほとんど皆無だった。殊に江戸期と称する近世の側面文学史こそは、真の民衆の知識と嗜好を知る上に於いては、一部特権階級の主体文学よりは実際文学であったにもかかわらず忘却されがちで今日に到っている。なかんずく江戸後半期に於いては、公開を許されぬ暗流的なものの横行した時代で、この暗流方面に属するものは、曩に『東亜軟性書考』に於いて大要を紹介して置いたが、この暗流と上流との中間を流るるものが、この好色文学と云わるべき存在であろう。本稿はこの傍系文学史を企画して見たが、なにぶん処女林の開拓であり、大要を渉猟したのみで、未だ資料の尽くさぬものや、全然漏らしているものも相当あると思うが、それらは後日研究家に依って大成されるであろうから、本稿はその折の捨石ともなれば幸甚である。(「序」より) 目次
序
序 説
第一章 仮名草子時代から浮世草子・江戸小説時代
第一節 恋愛物
第二節 教訓物
第三節 笑話物
第四節 旅行記文学と名所記と川柳
第二章 稚児物と野郎物
第一節 稚児若衆に関する仮名草子
第二節 若衆歌舞伎と野郎評判記
第三章 花街物
第一節 序 説
第二節 物語と諸わけ物
第三節 細見と評判記
第四章 あぶな絵その他
第一節 艶画の大要
第二節 雑 録
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